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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)920号 判決

上告人 松本敬子

被上告人 清水エム 外二名

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人中村栄治の上告理由第二点について。

被上告人らの本訴請求は、本件各不動産は亡清水広人の相続財産であるところ、これについて、亡広人と被上告人エム間の嫡出子たる資格に基き清水広幸のため相続登記が為され、次いで、広幸より上告人のため抵当権設定登記が為されているが、広幸には相続権がなく、真正相続人は被上告人らであるから、右抵当権設定登記は無効である、として、上告人に対し右抵当権設定登記の抹消を求めるものである。そして、原判決(その引用する第一審判決)理由によると、原審は、曩に被上告人エムが広幸を相手方として長崎家庭裁判所に調停を申立てたことに基き、家事審判法二三条により、亡広人及び被上告人エムと広幸との間に親子関係が存しないことを確認する旨の審判が為され、同審判の確定したことは当事者間に争がないから、その既判力が第三者に対しても及ぶ結果として、裁判所もその既判力に拘束され、広幸と亡広人間には親子関係が存在しないと認定せざるを得ないとし、これを前提として広幸の相続権を否定した上、被上告人らの本訴請求を認容しているのである。

しかしながら、家事審判法二三条は身分関係について当事者間に合意が成立し、これを前提として当該合意に相当する審判をすることができることを規定したものであつて、身分関係の存否が確認される場合は、その審判の性質上、存否が確認される身分関係の主体となる者が当事者として加り、その当時者間に合意が成立して、始めてその審判に人訴三二条、一八条の類推によるいわゆる対世的効力が附与され得るものと解すべきである。従つて、本件の場合、前記長崎家庭裁判所の審判のうち、亡広人と広幸との間に親子関係が存しないことを確認する旨の部分は、存否が確認された親子関係(父子関係)の主体の一方である亡広人がその手続の当事者となつていないことが明らかである以上、これに対世的効力を認めることはできない。しかるに原審が、右審判部分にも対世的効力があるものとし、これを前提として被上告人らの本訴請求を認容していること前叙のとおりであるから、原判決は家事審判法二三条、二五条、人訴三二条、一八条の解釈を誤り、ひいて審理不尽、理由不備を来した違法があるといわなければならない。論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、その余の論旨に関する判断を省略し、民訴四〇七条を適用して、全裁判官一致の意見により、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

裁判長裁判官藤田八郎は出張につき署名押印することができない。(裁判官 池田克)

上告代理人中村栄治の上告理由

第一点 〈省略〉

第二点 上告人は原審に於て前記審判(甲第一号証)は権限のない裁判所によつて為されたものであるから無効である従つてそれが確定して居ても被告広幸が右訴外人(亡清水広人)の子でないことが確定したことにはならないと主張して居るものである所であるが甲第一号証によると家事審判法第二三条に依つて審判を為して居るが家事審判法第二三条(合意に相当する審判)の規定には身分関係の存否の確定に関する事件の調停委員会の調停に之を準用する」とあり然る処民法第七八五条(認知の撒回の禁止)及人事訴訟法第二七条、第三一条、第三二条規定の趣旨からすれば身分関係の存否の確定に関して本件の場合(特に訴外人亡清水広人との関係を見るとき)右家事審判法第二三条(合意に相当する審判)〈2〉の準用の規定を以て甲第一号証の審判を為す事を得ざるものであると解すべきである、従つて甲第一号証の主文に於て申立人及び同人の亡夫清水広人と相手方との間に親子関係が存在しないことを確認する)とあるは違法無効であるとすべきであると上告人は主張するものであります本件について右審判当時の実情から観察して見るとき右訴外人清水広人は既に故人であるから被上告人清水エムに於て単独に清水広幸を相手方として親子関係不存在確認家事調停事件の申立を致して居るものであるのに右の如き審判(合意に相当する審判)即ち申立人及び同人の亡夫清水広人と相手方との間に親子関係が存在しないことを確認すると云う事は民法第七八五条人事訴訟法第二七条以下の規定並家事審判法家事審判規則の全趣旨から見て絶対に為し能はざるものと云うべきである、然る処原審判示によれば訴外亡清水広人が改正前の民法による戸主であつて控訴人等主張の日に死亡し原審相被告清水広幸がその法定の推定家督相続人たる嫡出の長男として家督相続をしたことしかるに控訴人等主張の日にその主張のような審判がなされて確定し清水広幸は潜称相続人であつて控訴人ら三名が亡清水広人の共同相続人であることが確定したことしたがつて別紙目録記載の土地はすべて控訴人等三名が共同相続により所有権を有することしかるに被控訴人は右審判のある以前に全く善意ですなわち清水広幸が家督相続により所有権を有する者と信じて同人と本件土地について控訴人等主張の各日にそれぞれの主張の抵当権設定契約を締結しこれに基いてその主張の如く各抵当権設定登記を経たこと以上の事実については当裁判所の判断は原判決の説示するところと同一であるからこれ(原判決理由中被告松本敬子に対する請求についてと題する部分の(一)(二)を引用する」とあるけれども上告人が第一審以来主張する右甲第一号証の審判が無効であるとの点については判断を遺脱して居るのでないかと見られる訳であります。尤も第一審判決の説示中に被告は右審判の無効であることを主張して居るのであるが、その有効であることは家事審判法第二三条の規定によつて明白であるから被告の右主張は理由がないとあるが故に原審が右審判が確定したと云うは其前提たる上告人の右審判無効の主張は家事審判法第二三条の規定によつて理由がないものと解すれば此点について遺脱ありとは云はれざれが然し上告人は此点に関しては第一審以来(昭和三十一年十二月十一日付答弁書第四項)長崎家庭裁判所の審判は違法無効であると主張するもので其拠拠とするところは家事審判法家事審判規則特別家事審判規則及民法第七八五条七八六条人事訴訟法第二七条、三一条、三二条の法則の趣旨が主張する次第であります。

第一審判示に於ては家事審判法第二三条に依れば上告人の此点に関する主張は理由がない簡単に排斥されているけれども冒頭記述の如く右二三条(合意に相当する審判)の〈2〉の準用の規定は本件の場合に於て所謂準用の対象とすべきでないと解すべきである即ち原審判決には判断の遺漏又は審理不尽理由不備の違法ありと云うべきである。

第三点 〈省略〉

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